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上原翔子
TOEICリスニング満点・英検1級

2012年からオーディオブックで洋書を聴いている英日翻訳者。今はScribdアメリカのAudibleKindle Unlimitedを利用しています。英語は聴く派、日本語は読む派。




【英日読み比べ】DIE WITH ZERO ゼロで死ね【心を動かす技術が詰まった日本語版の魅力】

【英日読み比べ】DIE WITH ZERO ゼロで死ね【心を動かす技術が詰まった見出し】
難易度
易しい
~英検
5級
英検
2級
TOEIC
700
TOEIC
850
英検
1級~
難しい

他界する時までに、全財産を上手に使い切りましょうという本です。

本の内容はここでは割愛しますので、概要を知りたい方はこちらの動画をご覧ください。

本書、英語で書かれた本なのに、英語圏ではなく日本で人気なことがずっと不思議でした。

(2021年9月17日時点で、Amazon.comではレビュー479件、Amaozn.co.jpでは857件)

英語版のオーディオブックが無くて、日本語版のオーディオブックがあるなんて、かなり珍しいです。

マーケティングに成功しているのかな、なんてボンヤリ思っていたんですが、日本語と英語で読み比べて翻訳・編集・校正の影響が大きいと感じたので記事にします。

もくじ
筆者:Shoko

2012年からオーディオブックで洋書を聴いている英日翻訳者。今はEverandアメリカのAudibleを利用しています。英語は聴く派、日本語は読む派。TOEICリスニング満点、英検1級。

児島修さん訳『Die with Zero』は原書の見出し・小見出しを徹底的に修正

ビル・パーキンス著、児島修訳『Die with Zero』
  1. 日本語で読む
  2. 原文が気になったところだけ付箋を貼る
  3. 付箋の箇所だけ英語で読む


という流れで読もうと思っていたんですが、③が難航。

なぜなら、原書の小見出しはほぼ無視されていたから。

例えば、最後の章「ルール9-大胆にリスクを取る」の見出し

リスクを恐れるあなたへ

は、原文の下記3つの見出しから成っています。

  • Quantify the Fear: The Case for Moving
  • How to Be Bold as an Older Person
  • What if I’m Risk Averse?

この3行が、たった11文字で、ギラリと刺さる見出しに変身していると思いませんか。

他にも段落の順番があちこち入れ替わっていて、章まで違う箇所もあったので、結局、英語でも一通り読みました

そして、Die with Zeroを日本語と英語で読み比べていて日本で売れるビジネス書の書き方を指導されている気分になりました。

欧米諸国の方と比べると、あまり本を読まないと言われている日本人が「読みたくなるように」そして「さくっと読めるように」の工夫がこれでもか!というくらい詰まっています。

本を読むと、「あの本と同じ雰囲気だな」「あの著者と同じことについて言及しているな」と、ふと別の本を思い出すことがありませんか。

本書の場合は「似ている本」でも「引用元が同じ本」でもなく、あの本に書いてある技術が使われていると何度も頭をよぎりました。

『心を動かす無敵の文章術』『消費者の心を動かすデザインの技法61』

1冊目は千田琢哉さんの『心を動かす無敵の文章術』。

2冊目は中村和正さんの『[買わせる]の心理学 消費者の心を動かすデザインの技法61』。

「心を動かす」という共通のキーワードが含まれているだけでなく、本を裸にすると愛猫と同じ色をしていたことにもビビっときたので合わせて紹介します。

(ちなみに、出版社も印刷・製本社、装丁担当者も異なっていたので、すごい偶然!)

『Die with Zero』と『心を動かす無敵の文章術』(千田琢哉)

『DIE WITH ZERO』『心を動かす無敵の文章術』

見出しで結論を伝えている

ビジネスで結論から伝えないというのは、ほぼ犯罪行為に等しい

千田琢哉

と、千田琢哉さんは 『心を動かす無敵の文章術』 で書いています。

【Timing is Everything】を直訳すると、「タイミングが全て」ですが、これだけでは、いつがタイミングか本文を読まないとわからないですよね。

でも、日本語では

金の価値を最大化できる年齢は「25~35歳」

という見出しがついていて、まさに「25~35歳」という結論が先になっています。

さらに、原文に対応する見出しがない場合も、

資産を減らすポイントは45~60歳

という結論を見出しにして、段落を増やしていました。

見出しが印象深い

見出しはコピーとなって読みやすく、印象深くしなければ読んでもらえない

千田琢哉

印象深い見出しの例が 『DIE WITH ZERO』 には多数あります。

目次を見て「まずはここから読もう」と思わせた見出しは

死後にもらうと、うれしさ半減、価値は激減

原文では【Dying to Give the Money Away: The Problem with Inheritance】と書かれています。

「死んでからお金を渡す相続の問題点」と訳されていたら、私は「ここから読もう」とは思わなかったです。

エイリアンの襲来に備えて貯金するバカはいない

この見出しもインパクトがあります。本文中にエイリアンのくだりは確かにあります。

しかし、それを見出しにもってくるのは、勇気がいるかも。

ちなみに、相当する原文の見出しは【An Abundance of Caution】。

素人の私が訳そうものなら「みんな警戒しすぎ」くらいにしかならないです。

説明力を強化する固有名詞の選択

文章の中に数値や固有名詞を入れると、説明力や交渉力が一気に強化される

千田琢哉

数字を入れたり、固有名詞を入れて、文章に説得力を持たせようとするのは、多くの人が意識していることではないでしょうか。

ここでいう固有名詞は、誰もが知っている著名な人の名前である必要があることも本書を読み比べていて痛感しました。

My friend Cooper Richey put it well when he said, “The human brain is wired to be irrational about death.” People avoid the subject of death, they behave as if it’s never coming, and too many don’t plan for it. It’s just some sort of mystery date in one’s future when we expire.

Bill Perkins

上記の文、「人々は死の話題を避け、それが決して来ないかのように振る舞う。自分がいつか死ぬという事実から目をそらさずに人生を計画している人は少ない。私たちはその日を、遠い将来に起こるミステリアスな何かとしかとらえていない。」と訳されています。

太字にしたクーパー・リッチーさんの引用文は見当たりません。(私が読み落としているだけで、別の章でこの文があったら教えてください)

日本人読者にとっては「クーパー・リッチーって誰?」なので、彼の名前を訳し移す必要はないとなったのでしょう。

あとがきで「クーパー・リッチーについては、1段落を費やして感謝の言葉を述べなければならない。」と言及のある方なんですが、日本のマーケットに出す場合、こういった人名は削ぎ落し、読みやすくすることで、多くの読者が獲得できるのかなと感じました。

Cooper Richey actually deserves his own paragraph.

Bill Perkins

『Die with Zero』と『消費者の心を動かすデザインの技法61』(中村和正)

『DIE WITH ZERO』『[買わせる]の心理学 消費者の心を動かすデザインの技法61』

目次を見て、すぐに頭をよぎったのは中村和正さんの『[買わせる]の心理学 消費者の心を動かすデザインの技法61』。

ここでは61の技法の中の下記3つの具体例となる『DIE WITH ZERO』 の見出しを紹介します。

  • カクテルパーティー効果
  • バーナム効果
  • ストーリーテリング

カクテルパーティー効果

スタバのコーヒーを毎日買っているあなたへ

「あなたのことですよ」と呼びかけて、ターゲット層の注意を引く効果がある見出しです。

原書では2章目の最後に書かれている文章ですが、日本語版では3章目の一番最初に見出し付きになって登場します。

心理学を駆使して編集/校正したと思わずにはいられません。

バーナム効果

夢に挑戦すべきか迷ったら

「夢に挑戦すべきか悩んでいますよね」と聞かれたら、なんとなく思い当たる節があるかもと感じる人は多いと思います。

そういった、なんとなく誰にでも当てはまるような呼びかけをしている見出しの原文は【Career Choices】。

本書を手に取る日本の読者めがけて、一直線に射られた見出しだと感じました。

ストーリーテリング

【People who save too much】を直訳すると「貯金しすぎている人たち」ですが、原文のこの見出しは却下されています。

その代わりの見出しは、具体的なエピソード。

祖母にあげた1万ドルのゆくえ

「祖母」という人物に「1万ドル」という具体的な金額を渡した物語は、人の耳を傾かせて、感情を動かします。

そのため、原書ではサイドストーリーのような位置づけだった文は、日本語版では見出しになってドンと置かれています。

お礼

日本語版はインスタグラム経由で、@diewithzerojpさんからいただきました。

元々はインスタグラムでレビューを1投稿してほしい、というご依頼でしたが、英語と日本語で読み比べたらとても勉強になったので記事にしました。

内容のレビューは一切なしの風変わりな内容になりましたが、英語の勉強をしている方や、出版業界に興味がある方が読んで面白いと思う内容になっていたら嬉しいです。

もしよければ、この記事の感想をインスタグラムのコメント欄にお寄せください。

この記事で読み比べた本

著:ビル・パーキンス, 翻訳:児島 修
¥1,515 (2021/09/17 19:55時点 | Amazon調べ)

引用文献

著:千田 琢哉
¥565 (2021/09/17 20:03時点 | Amazon調べ)

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